
(サウンド・インスタレーション / 2026年)
作品概要
展示会場である鴨江アートセンターの向かいには、浜松出身の映画監督・木下惠介の記念館がある。木下は『二十四の瞳』や『野菊の如き君なりき』など、戦争が人々の心に残した影を繊細に描き続けた、日本映画史における重要な作家である。
戦時中に4本の作品を残した木下の最後の戦時作品 『陸軍』(1944年)は、息子を戦地に送り出す家族を描いた物語である。国策映画として制作されながらも、田中絹代演じる母の表情や沈黙の中に、戦争の悲惨さと別離の痛みが深く刻まれている。
プロパガンダとは、ある意味で芸術が持つ力が、最も直接的に発揮される形式であると言える。
国立近代美術館に収蔵されている《アッツ島玉砕》は、太平洋戦争末期の激戦を描いた戦争画である。この作品を手がけた藤田嗣治は、戦前からフランス・パリで活躍し、「乳白色の肌」と呼ばれる独自の画風によって、現在でも高い評価を受けている画家である。戦時中、藤田は従軍画家として戦地に赴き、自らの意思で戦争画を制作した。彼に限らず、多くの従軍画家や芸術家たちは、国家からの強制だけではなく、あくまでも主体的な判断のもとでプロパガンダとしての作品を制作・発表していたという側面を持っている。
戦後80年という節目を越え、かつて戦争を経験したこの建物で発表の機会をいただき、戦争を扱うべきだと感じていた。浜松で戦争を経験した私の祖父、満洲やフィリピンに出征した大叔父たち、国内で病死した一人の大叔父。そして、軍需都市として戦争に深く関与し、空襲によって焼け野原となったこの街。自分なりの方法で戦争の記憶を引き継ぐことが必要だと考えている。
映画監督・木下恵介も、戦時下においてその問いと向き合った作家の一人である。展覧会タイトルにも掲げた木下の戦時最後の作品『陸軍』(1944年)は、息子を戦地に送り出す家族の姿を描いた国策映画である。一方で、田中絹代が演じる母親の表情や沈黙には、戦争の悲惨さや別離の痛みが抑制されたかたちで刻み込まれている。検閲が厳しかった当時、こうした描写は問題視され、木下は監督の仕事から外され、のちに松竹を退社することになる。
『陸軍』が私たちに投げかけるのは、ファシズムのただ中で、芸術家はいかにして信念を表現し得るのかという問題である。木下が国策映画を通してプロパガンダに加担したことは紛れも無い事実であり、当時何を考えていたのかを断定することはできないが、少なくとも彼は、松竹映画のリアリズムという伝統に則り、息子を戦争に送り出す母の感情を、リアリズムをもって描こうとしたのではないだろうか。
「ファシズム化する状況の中で、私たちはどのように振る舞うことができるのか」という問いに対して、『陸軍』のラストシーンに鳴り響く行進ラッパの旋律をモチーフに、複数のアーティストとのセッションを行った。
これは木下恵介へのトリビュートであると同時に、戦時下の芸術と、現在を生きる私たちの立場とを重ね合わせる試みでもある。
ディレクション・ギター・ミックス:永田風薫
トランペット:村口亜星
ピアノ:えんにゅうなつき
ドラム:桒原幹治
ベース:髙橋侑大
録音:鳥居詩音、山科彩香
Recorded at 東京藝術大学千住キャンパススタジオA







フライヤーデザイン:柳川智之
永田風薫展覧会 トリビュート『陸軍』
2024年度浜松市鴨江アートセンターアーティスト・イン・レジデンス賞展覧会
会期|2026年1月17日(水) – 1月25日(日)
時間|10:00~21:00
会場|鴨江アートセンター
入場無料